――ライブハウス――…06/6/16













ギターを弾きながら、喉の調子を整える。
















楽譜を見ながら、水に手を伸ばす。











ない。




















届かない。


















手を遊ばせる。
















どこにもない。


















確か傍に置いた。













首を傾げ、顔をあげる。
ベースの龍太と目が合った。
「エヘ」
龍太は舌を出し、笑った。
同じように笑い返す。
「見てて面白かったよ」
奴の手にはペットボトル。
私のだ。
ずっと見られていたのだ。
「龍太」
「何?」
「返しなさい」
「はーい」
素直に水をよこす。



















軽い。


















まさか…と思い、蓋を開ける。
空。
一滴も入っていない。
「飲んじった」
ヘラリと笑う。
「こんの…」
ギターを棚に置き、立ち上がる。
「死ね」
蹴飛ばした。
「あぅ…」
龍太の身体がその場に転がる。
「痛い…」
蹴られたところを擦りながら、涙目で私を見る。
「あー、と…」
ちょっとやりすぎた。
私は頭をかき、しゃがむ。
「大丈夫?」
「痛い」
「…ごめん」
「酷いな、沙希……」
「……ごめん」
「…なんてね。う・そvv 大丈夫」
どんなに酷い仕打ちをしても簡単に許してくれる。
だから敵わない。
龍太には勝てない。
こんな奴でも好きだ。
「…ごめんね」
「だぁから、平気だって」
ポンポン、と頭を撫でられる。
「…ありがと」


















「龍太、沙希、もうちょいで出番」




















ドラムの聡が顔を出す。
「はーい」
龍太は元気よく返事をして、立ち上がった。
「ね、聡」
私も立ち上がる。
「何?」
「人。…どれ位いる?」
聡がニヤリと笑った。
厭な笑顔だ。
「緊張してるんだ、顔に似合わず」
ぷぷっ、と吹き出す。
ムカッ。
「うっさい、黙れ、似非爽やか野郎」
きっ・ときつく睨む。
そしたら、軽く頭を叩かれた。


















「そんな汚い言葉遣っちゃダメじゃないの」















この声の主はキラ。
もう1人のギター。
女である私より女らしい男。
判りやすく云えばオカマ。
そして誰よりも男らしい人物。
殺されるから言葉にはしないけど。
(まだ死にたくないし)
「聡。可愛いのは判るけど、あんま沙希を苛めちゃダメよvv」
「そうそう、いくらいじりがいがあっても」
龍太が加わる。
「ちょっと!」
「「何?」」
同時に振り向く。
「〜…ッ…何でもない!!」
下唇を軽く噛み、立ち上がる。
「出番なんでしょ! 行くよ」
ギターを抱え、部屋を出る。

























「あーあ、怒らせた」

「聡の所為ね」

「俺かよ!!」

上から、龍太、キラ、聡。
バンド内の阿呆3人組。
其れを無視して、廊下を歩いた。
























「いったー! 沙希!」






















大声で叫んで、やってくるのはボーカルの夏樹。
キラの次に女らしい女の子。
「何?」
「何? じゃないわよ! 出番だって言ったじゃない。もう!
 阿呆たちは?」
「あっち」
部屋を指差す。
夏樹を怒らせたら、1番怖い。
「先行ってるから〜」
ヒラヒラと手を振る。
さわらぬ神に祟りなし。
「OK」
夏樹が部屋に入っていく。
怒鳴り声が聞こえた。
ひたすら謝る3人。




「阿呆だ」







くつくつと笑い、ギターのストラップを肩にかけた。






「さ、がんばろ」



























【アトガキ】
…何処がヘタレ? 全員か?
夏樹以外全員だな。
やっぱ音楽系は楽しいなぁー。
というか、書きやすいんだ。
自分がバンドやってたからかな。
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